病院長挨拶

  • 2019_
-成果は1%-
〜八代総合病院だより 『すこやか』 2012年新年号 病院長挨拶より〜

 謹んで新年のお慶びを申しあげます。

 

昨年は、何と言っても全ての日本国民が大変なショックを受けた3.11東日本大震災とそれに引き続く原発事故があり、本当に心を痛めました。まだまだ復旧すら儘ならない状況ですが、雄々しい復興を信じております。

 

さて、八代総合病院におきましては、皆さま方のご支援のお陰によりまして新築事業も順調に進んでおります。現在、着工後、丁度1年になりますが、「男気」と「なでしこ」の2機のタワークレーンと伴に地上部分の鉄骨構造が遠くからも見えてきており、市民の皆さん方からも、「太か鉄骨が日に日に立ちあがってきて、私たちも嬉しか」と言って頂いて、職員一同、さらにモチベーションを上げております。

 

産経新聞の6面あたりに「次世代への名言」というコラムがありますが、昨年11月ごろに孔子の荀子から採られた名言が掲載されていました。それは「年若いころ、強めて学ばなかったがために、年老いたときに人を教えることができない。恥ずべきことである。」というもので、なかなか奥深いものでした。「強めて」は「つとめて」と読んであり、如何にも「学ぶこと」への膨大な労力と習得の困難さを表現しております。また、「年若いころ」と「年老いたとき」の区別も頭を痛めます。例えば、「公に貢献するという価値観」は、如何に年老いていても毎日毎日磨かなければ直ぐに錆びついてしまいますので、一生磨き続けなければ研ぎ澄まされるものではありません。そして、最後の「恥ずべきことである」の一文は、正に、わたくしのような怠惰なこころをもつ者を直撃し、否応なしに背筋がピンと伸びてしまいます。

 

どうも、この孔子の言葉は、年若い人へ直接言っているではなく、世の中が随分わかってきた大人がさらに修行しながらその苦行の結果を若い人へ教えるべきと言っている言葉、のような気がしてなりません。

 

この八代総合病院に参りましてから、5年が経ちました。その間、熊本市の自宅には週末に一寸帰るだけですので、換気も儘ならない自宅は荒れ放題です。大みそかの午後に、女房からきつく言われて、汚くなった書斎を一念発起、掃除しましたら、大学院時代やNIHに留学していた時の研究に関する大きな段ボールが5個も出てきました。そして、その99%が失敗に次ぐ失敗のデータで、他人が見たら、大金をかけた単なる屑です。

 

わたくしに世の中で特に辛いものを1つ挙げてみてと言われたら、間違いなく真っ先に、「研究」と答えます。ここで、一口に研究と言っても、研究には2種類ありまして、1つは「安全研究」で他で出た良い結果を真似して数を増やしたり、数で業務報告をしたりすることで、必ず成果がでることは分かり切っている訳ですから安全・安心なリスクのない研究です。一方、「真の研究」は、誰も未だ挑戦していない本当の研究で、リスクにも高低ありますが、成果を出すのに死に物狂いです。リスク極まりない前人未到の研究は、万が一、大当たりすればノーベル賞ですが、本気で足を踏み入れた人の大部分は命を無くします。例えば「がん研究」におきましても、超秀才なのに結果が出ないために屍となった多くの研究者を知っています。幸いなことに、わたくしには、すべてお見通しの神様が付いておられて、「怠惰なお前に真の研究は向かん!」と思し召して、危ういところで足を洗わせて頂きました。そして、それなりの1%の成果と、さらに有難いことに、その膨大な99%の失敗副産物のお陰で、かけがえのない友人や経験・知識を得ることができました。

 

わたくし共の八代総合病院は、「公に一肌脱ぐ」が合言葉でございます。その実践のための「アスクレピオスの杖」は、上記の通り、1%の成果に向かって、毎日毎日磨かなければ直ぐに錆びついてしまいます。これからも、「質の高い医療」と「患者さんを癒す医療」に加えて「新病院建設」を、全職員が一丸となってさらに努力して参りますので、今後とも、皆さま方のさらなるご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

 

平成24年1月



 

2012.7

-正しい批判力を持つ国民が一肌ずつ脱いだら-

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2012年夏号 病院長挨拶より〜

 

2012.4

-金太郎飴とガス抜き-

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2012年春号 病院長挨拶より〜

 

2012.1

-成果は1%-

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2012年新年号 病院長挨拶より〜