病院長挨拶

  • 2019_
—「背面跳び」なんて誰がどうして考えたんだろう—
〜八代総合病院だより 『すこやか』 2008年新年号 新年のご挨拶より〜

 新年あけましておめでとうございます。

 一昨年は満身創痍で崩壊寸前だった八代総合病院は、昨年、当院の優秀な医師団を中心として全職員が質の高いチーム医療を情熱をもって実践した結果、八代市郡医師会、熊本大学教授陣、八代市行政ならびに地域住民の皆さんの暖かいご支援を得て、病院崩壊の危機をすんでのところで回避することができました。そして、この1年間、当院の基本方針である「自分自身がかかりたい新しい総合病院に」という医療の正道を全職員が確実に突き進んできた結果、整形外科や耳鼻科も復活させて頂き、閉鎖病棟も再開され、質の高い医療を実践しながら、病院経営の方も劇的に改善し、何と今や、膨大だった累積赤字を早期にも解消する勢いでございます。当院をご支援頂いている各方面の方々のお陰といつも深く感謝の申し上げております。

 私は、常々、職業というものは嫌々やるものではなく、好きでなければ務まらないと思っております。特に、医療は、辞書の例文にもよく出ている通り、「医を天職として従事」し、公に貢献すること、を幸せに感じるプロの集団の仕事です。昨年の大晦日にテレビを見ておりましたら、走り高跳びの話をやっていました。走り高跳びの種類には、はさみ跳び、ベリーロール、そして、背面跳び、というのがありますが、バーを反対向きに背中で跳ぶ「背面跳び」なんて、一体誰がどうして考えたんだろうと思って見ておりましたら、アメリカのオレゴン州のなんとかベリーという人が、ベリーロールではなく、背面跳びを1960年前半に何と高校生の時に考案したそうです。背中から跳ぶなんて、だーれも考えませんから、また、最初は良い記録も出ませんから、背面跳びをやり始めたときは、みんなの笑いもので、大学のコーチは、恥ずかしいから背面跳びをするなら三段跳びに転向しろと言われたそうです。しかし、そのなんとかベリーという人は、走り高跳びが大好きです。走り高跳び以外の種目なんて彼の頭にありません。「何も道具を使わずに自分の力だけで高く跳ぶ」ということが、小さい頃から好きで好きでたまらなかったそうです。そして、こつこつと猛練習をして、コーチを納得させ、1968年のメキシコオリンピックで見事金メダルを獲得しました。このなんとかベリーという人は、別に有名になって儲けてやろうとかいう邪念で背面跳びを考案したのではなく、「道具を使わずに走って誰よりも高く跳ぶ」という素直な自分のこころと情熱とアートで、その結果、その思いもかけない跳び方を自然と考案し、誰よりも高く跳ぶことに成功した訳です。そして、現在、オリンピックで背面跳び以外で跳ぶ人はいません。「こころ」で考案した跳び方が理論的にも証明されたからです。医療も同じで、医療に従事する人は私も含めて、医療が好きだから医療を実践し、医療を自分のものとして、更なる質の高さのために自分流を工夫・考案し、医療を通じて公に貢献することが幸せだから日夜努力している訳です。

 ところが昨年もまた、医療自体が蔑ろにされました。効率化や競争論理に名を借りた内容が伴わない心ない役人主導型の医療システム改悪だけが横行し、患者さんの満足のいく医療が提供できなくなっております。診療報酬改正、スーパーローテートでお馴染みの悪の根源の卒後研修医制度、7:1看護、国民皆保険制度に対するネガティブな動き、などアメリカの二番煎じしか思いつかない厚労省は、日本国民に対して公のこころを持てないプライドのない集団としか言いようがありません。少なくとも、間違ったと判断される改正は、即刻中止した上で、早急に最善策を考えるべきです。このままだと病院のみならず医師自身も崩壊し、アメリカのように医療人以外の人間が金儲けだけのために医療を行うようになるでしょう。若いドクターも給与やきつくない仕事にあまり執着しすぎると、実力あふれる医師としての将来に暗雲が立ちこめてくることを十分承知してもらいたいと思います。ご承知の通り、アメリカでは保険会社が治療ならびに治療方針を決定し、医師は単なる医療の道具に成り下がっております。まさに教育と医療は国家の基盤であり、何をさておいても国費を注ぎ込んで惜しくないものであるはずです。教育と医療は、人間のこころを育て文化と安心を育むことであり、人間や国のあるべき姿を見晴らしその方向性に向かって協力し、その結果、国が栄え、みんなが幸福なこころを持つことが出来るのかと思います。

 前述の通り、当院は「職員自身がかかりたい新しい八代総合病院」に向かって着実に進んでいるところです。しかしながら、常勤医師不在の診療科はまだ複数あり、質の高い医療は提供させて頂いておりますものの、そのために、公的総合病院としての役割を地域住民の皆さんに全く果たしておりません。私は、高い見識をお持ちの熊本大学、行政ならびに医師会が主体となって、都市部の急性期病院群を指導し、必要によっては貢献しない急性期病院群にペナルティーを課してでも、早急に、地域医療に最適で効果的な医師の実力が発揮できる医師数の適正配置をしていくことが、地域の困窮した急性期医療体制再建のための最も有効な解決策であることを再度強調したいと思います。

 激動の昨年でありましたが、この間、不肖の私にご厚情とご指導を賜り誠に有難うございました。また、この八代総合病院にこの上ないご支援を賜り誠に有難うございました。心からお礼を申し上げます。当院の使命と機能は、公的急性期病院として「患者さんに満足される質の高い最新の医療を情熱を持って実践する」「自分自身がかかりたい病院にする」という医療の根源以外にはございません。このことをいつも肝に銘じて邁進致しますので、本年も、皆々様方の倍旧のご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

平成20年1月



 
2008.10

−「文化」とは「一肌脱ぐこと」とみつけたり−

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2008年秋号 病院長挨拶より〜

 

2008.4

—再スタートに感謝し、きちんとした目と耳と鼻と口を穿つ—

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2008年新年度号 新年度のご挨拶より〜

 

2008.1

—「背面跳び」なんて誰がどうして考えたんだろう—

〜八代総合病院だより 『すこやか』 2008年新年号 新年度のご挨拶より〜