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「独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO) 熊本総合病院」がスタートし、2年半が経過いたしました。先月には第2回JCHO学会も開催され、当院からも12題の発表を行い活躍しました。全職員はJCHOというブランドの下、さらに質の高い医療の実践をしながら、JCHOの使命である「地域医療のみならず地域包括ケアの推進」に向かって大いに公に貢献するように努力しておりますが、すべては、医師会、熊本大学教授陣、国・県・市行政ならびに市民の皆さま方のご支援の賜と深く感謝申し上げております。
そしてこの度、当院ならびに私に対しまして、栄えある「平成28年度JCHO尾身理事長賞」を頂きました。この賞は、①熊本で潰れる病院ナンバーワンでございました当院が、全職員が一丸となって努力致しました結果、JCHOの使命を推進しながら、極めて良好な経営・運営ならびに質の高い医療の実践ができておりますこと、②最近はJCHO病院間の支援もできるようになりましたこと、そして、③県外の皆さまからも大変なご支援を頂きました4月の「熊本大地震」に際しましては、全ての災害患者を受け入れ、特に、人工透析室は3階にあるものですから、エレベーターが停止している間じゅう、みんなが率先して何と人力担架で沢山の患者さんをピストン輸送で運び、多数の医療弱者を救命することができましたこと、さらに、④当院は災害避難所として指定されていないにも関わらず、多数の市民の皆さんからの「新築したJCHO熊本総合病院は地震にも津波にも安心なので、是非、避難させて欲しい」との要望を受け、直ぐさま外来部門を市民の皆さんに全て開放したこと、を尾身理事長によって高く評価されたことによるものでございます。今後、当院の全職員のモチベーションはさらに高まることと、深く感謝申し上げます。
ところで、「鉤引き3年」という言葉をご存知でしょうか。私ぐらいの世代の外科医にとっては、耳にしたくもない言葉です。「鉤」は、外科手術時に術野を展開し確保するために、主に第3助手が使う道具です。「鉤」は長さが調節できないため、「腸ベラ」という曲げ伸ばしできる単なる金属製のヘラを使うこともありますが、専用でないので持ちにくく大変です。最近では術野の確保のための色々な洗練された高性能の器械が多種開発されたため、前出の言葉は死語に近いものですが、35年位前あたりは、大体、主治医の第3助手が全ての手術のお膳立てをして、手術中ずっと「鉤」を引いて、終われば術後管理をする、という奴隷のような日々の繰り返しでした。特に、食道癌などの大手術では、腹部では肝臓や横隔膜や腸を引き、胸部に至れば肺や心臓を引き、8時間以上「鉤引き」ばかりで死にそうなだけでなく、「引きが悪い」と言って執刀医の左手にあるピンセットでバシバシ叩かれ、とんでもなく痛い上に青痣もでき、その凄惨さに辞めてやると言って手術室を出ていこうとも思ったことも数知れません。
ところが、石の上にも3年、「鉤引きのプロ」になりますと、①引く手加減が分かって楽になる上に視野も俄然良く確保できる、②それぞれの臓器の性質が分かって腹部や胸部が何か自分の庭に思えるようになる、③執刀医の実力ならびに失敗の原因が手に取るように分かる、ということを会得します。そして、その辛い基礎修行があったからこそ、自分が患者さんにメスを入れるようになった時、患者さんを助けるという重大な使命を遂行することができる訳です。
JCHOに移行してあと半年でその3年を迎えます。「熊本総合病院は全職員が患者さんに失礼のない質の高い医療を行いながら、その基礎となる毎日の基本修行も並行して心がけていますか?」、と自分を含めて語りかけております。
今後とも、皆さま方のさらなるご支援とご指導を何卒よろしくお願い申し上げます。
平成28年10月
2016.10
〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2016年 秋号 病院長挨拶より〜
2016.7
〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2016年 夏号 病院長挨拶より〜
2016.4
〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2016年 新年度号 病院長挨拶より〜
2016.1
〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2016年 新年号 病院長挨拶より〜