病院長挨拶

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自然を畏れ自然に感謝する
〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2020年 夏号 病院長挨拶より〜

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暑中お見舞い申し上げます

  この暑中お見舞いを書いているさなか、表紙の通り、思いも寄らない「熊本豪雨球磨川流域大水害」が起こり、球磨川流域・人吉・芦北に甚大な被害を蒙り、7月13日現在、死者64人・不明4人に上っており、深甚なる哀悼の意を表します。また、JCHO人吉医療センターにおきましては、特に看護師の皆さんの家が被災され診療体制に支障を来しましたが、有り難いことに近隣のJCHO九州地区各病院から直ぐに24名もの看護師の皆さんが申し出て既に支援活動を行っております。当院におきましては、幸いなことに八代市中心地の浸水は免れましたので、八代寄りの球磨川下流にある坂本町の浸水した医院の入院患者14名、芦北町の入院患者11名、人吉市の入院患者3名、そして、透析患者5名と被災された住民25名を消防防災ヘリ、ドクターヘリならびに自衛隊ヘリなどで受け入れるなど、全職員がお役に立てるように鋭意努力しております。
  このような中で、もう辟易している武漢発新型ウイルスの第二波も心配され、正に、天災と人災の二重苦に晒されております。さらに、全世界が大非難している「香港国家安全維持法」の強行施行で大量の逮捕者が続出している中、私どもは世界情勢にも強い関心を持ちながら、引き続き一丸となって、さらに質の高い医療の実践を行い、大いに公に貢献できるように努力しております。全ては、医師会、熊本大学教授陣、国・県・市行政並びに市民の皆さま方のご支援の賜と深く感謝申し上げます。
  さて、上記の通り、「熊本豪雨球磨川流域大水害」は本当にとんでもない災害でお亡くなりになられた方々やご親族には心から深いお悔やみを申し上げますが、数日前、被災された「人吉観光球磨川下り」に関わる30歳代の若い方がテレビのインタビューに、「舟はながされてしまい被害は大きいですが、この球磨川の急流のお陰で私達は生計を立てさせて頂いており、このような悲惨なことになっても、私達はいつもこの急流の球磨川と景観に感謝しています」と応えられ、若いのにその心と地域が人を育成していることに感銘を受けました。
  大災害となると必ず話題に登るのは、防災整備のことです。適切な防災整備は勿論必要ですが、残念ながら、とんでもない大自然の猛威を人間の力で防ぐことは到底できないということは万人が認めることと思います。
1万8千人以上がなくなったあの悲惨な東日本大震災の時も、防波堤が低いとのことで高さ10m以上の大岸壁を東北全土沿岸に整備する話を聞きましたが、大自然に抗う傲慢・無駄な計画ということで実行されておりません。

  一方、東北某市の先達の遺言は、「ここより海寄りに住居を作るべからず」でしたし、民営保育園の保育士さん達の理念は、「自分達が先頭に立って、何としてでも園児の命を守る」であり、いわゆるお役人に頼らずに「避難経路と方法・場所を自分たちの考えで決定した」そうです。その詳細は、①津波警報が出ればそれが例え無駄であっても、何と言われようが必ず高台に避難する、②道がなくても近道になれば地主に交渉してでも、退避路を確保し避難経路とする、③職員の自家用車に、最後の車は空でも良いから、さっさと次々に乗れるだけ載せて運ぶ、④「園児を守る」ための行動であれば全ては職員の裁量に委ねる、とのことでただ一人の犠牲者も出さなかかった神業に心から感嘆しました。
  古来、私共の先祖も「自然を畏れ自然を敬い自然に神々が宿る」との信仰の下、日本の美しい自然と共生して自然に感謝して参りました。これからどんなに文明が発展しようとも、決して人間は全能ではありません。
  以前紹介いたしましたが、曽野綾子氏は「人間は誰もが一生に1度や2度は思いがけない災害や不運に見舞われる。従って、むしろ人間には心の傷は忘れて将来に向かって明るく再出発する義務もある」と述べています。全くもって、至言ではないかと思います。
  盛夏の折、皆さま方の益々のご健勝を心よりお祈り申し上げ、今後とも、さらなるご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。


令和2年 盛夏

 
2020.1

「樹勢が落ちれば虫がつく」

〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2020年 春号 病院長挨拶より〜

 
2020.7

「自然を畏れ自然に感謝する」

〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2020年 夏号 病院長挨拶より〜

 
2020.10

「医療は医療だけに留まらない」

〜熊本総合病院だより 『ぱとす』 2020年 秋号 病院長挨拶より〜