
造影剤使用に伴う腎機能障害(CIN:contrast induced nephropathy)に対する確実な
予防策はなく血液透析のCIN予防効果も証明されていません。
Vogt らは、血清クレアチニン3.5mg/dL前後の113例を、3時間の予防的血液透析施行群
(HD群)と輸液群(Control群)に無作為に振り分けCIN発症頻度を比較したところ、
それぞれの群で31%と26%と有意差を認めず、造影剤投与後の全観察期間中(6日間)に
予定外の追加透析を必要とした症例はHD群でむしろ多い傾向(15% vs 5%)であり、
血液透析のCIN予防効果を否定しています。
対して、Lee らは血清Cr 4.9mg/dL前後の82例について同様の検討をしており、
Control群では造影剤投与後の血清Crの高値が持続し、予定外の透析を必要とした症例が
有意に多かったとし(2% vs 35%)、高度腎機能障害の症例に対しては予防的血液透析の
腎保護効果が期待できるとしています。
これらの報告における研究デザインの問題もありますが、造影剤腎症発症予防を目的とした
人工透析は不要であるとするのが、現在の一般的考え方です。

原沢ら(1990年)は4時間のHDにより投与された造影剤の71%が除去されたと報告し、
堀田ら(2000年)は2時間のCHDFにより投与された造影剤の51%が除去されたと報告した。
また、Donnellyら(1992年)は7日間のCAPDで透析液中に53.6%の造影剤が除去され、
尿中に26.9%の造影剤が排泄されていた報告している。
このように血液浄化法は体内からの造影剤除去を目的とした場合に一定の効果があるが、
腹膜透析の除去効率は十分とは言えないと考えられる。
Takebayashiら(2000年)の報告では透析患者に300mgI/mLのヨード造影剤を100mL使用し、
造影CTを行った3148検査の内、2056検査では翌日の定期HDまで透析を施行しなかったが、
明らかな副作用はなかったとしている。
これらを踏まえ、当院ではHD中の患者に対する造影剤使用上限を300mgI/mL、100mLと
してますが、造影CTを理由とする透析日程の調整は行っておりません。

1)Vogt, B., et al. : Prophylactic hemodialysis after
Radiocontrast media in patients with renal insufficiency is
potentially harmful. Am. J. Med., 111, 692-698(2000)
2)Lee, PT., et al. : Renal protection for coronary angiography in
advanced renal failure patients by prophylactic
hemodialysis. J. Am. Coll. Cardiol., 11, 1015-1020(2007)